◆WOGのNCAA講座◆
〜続き〜

●今までの目次●
NCAAとは?
NCAAで指すものは?
NCAAにはどんなところがあるの?
  カンファレンスについて 
   メジャーカンファレンスマイナーカンファレンス


○これからの目次○
NCAAトーナメントについて
 NCAAトーナメントの出場について
    RPIランキングについて
    On the Bubbleとは?
    65番目の不幸な子供

 シードについて
    一番近い開催場所?
    リージョン名の変更について
    アプセット/シンデレラ
 各地区のゲームの呼び方について
NCAAカレンダー
    Big Dance
    NITトーナメントについて
    シーズンの終わり
NCAAのランキングについて
    AP Ranking / ESPN/USA Today Ranking
NCAAのルール
NCAA/その他の用語や仕組み
    学年 / レッドシャツ / SAT / Fifth-year Senior / Senior Night / Transfer / JuCo/ サスペンション / AAU / Prep School / Recruit / Scholarship と Walk-on /ヘッドコーチ / ジョン・ウッデン賞/ ミスター・バスケットボール/ アーリーエントリーとアンダークラスメン / 学生席と学生観客 / ディック・ヴァイタル / McDonald's High School All American / プレビュー本
補遺

4.NCAAトーナメントについて

 毎年3月の第3週の木曜日から(3月の第1週が日曜日から始まる長い週の場合は第2週になるときもある)始まるNCAAトーナメント。詳しい日程に関してはNCAAカレンダーの項で述べるとして、ここではNCAAトーナメントに出場する大学の選ばれ方の仕組みについて説明しましょう。
 まず、NCAAトーナメントに出場する学校の数ですが、2000年までは64校と、2の6乗、つまり何も考えなくてもちゃんとトーナメントの形にできるだけの数が選ばれておりましたが、2001年からは65校と、半端な数になってしまいました。(この原因については後で述べます


4-1NCAAトーナメントの出場について

 さて、まずNCAAトーナメントに出場できる方法には、2つの場合があります。
  一つは「オートマティック」と呼ばれる方法。これは、3月の第1週もしくは第2週の週末(つまりNCAAトーナメントの直前)に行われる「カンファレンストーナメント」と呼ばれる、各カンファレンスの中でのトーナメント(カンファレンスによってはこのトーナメントへの出場権もレギュラーシーズンの成績によって出場できるか否かが決められる)が行われ、そこで優勝した学校がNCAAトーナメントに出場できる、というもの。また、カンファレンストーナメントが行われないカンファレンス(Pac-10やアイヴィーなど)はレギュラーシーズンのリーグ内でのゲームの成績が一番良かった大学が自動的に選ばれます。故にこの時点でNCAAトーナメントの椅子は31個埋まった計算になります。

  さて、残りの椅子はどのように争われるか?
 それは「セレクト」と呼ばれる方法によるもの。NCAAのトーナメント選考委員会が全てのカンファレンストーナメントが終わった後に、インディアナポリスの委員会会議所で全国のDivision Iの学校から持ち回りで選ばれた委員の合議によって残りの出場校が決められます。
 その場合に参考にされる基準がRPIと呼ばれるもので、RPIのランキングが高ければNCAAトーナメント出場への可能性が高まります。

●RPIランキングについて
 このRPIというのは一般にメディアが視聴者向けに公表するAPランキングとかESPN/USA Todayランキングといったもの(これらについては後で説明します)とは別物で、NCAAによって独自に評価されているものです。このランキングは非公開のため、バスケット関係者を除いては一般には公表されません。故にCBSなどで流している「RPIランキング」はあくまでも「RPIは今現在こうなっているであろうという予想のランキング」であって、実際のRPIランキングとは若干のズレがありますのでご注意下さい。
 因みにRPIの基準とされているものは

* どれだけ勝利したか。
* どれだけ負けたか。
* 勝利した場合、どんな勝ち方をしたか。(オーバータイムで勝った場合、1点差で勝った場合、20点差で勝った場合、とそれぞれ評価が全く違ってくる)
* 負けた場合、どんな負け方をしたか。(勝った場合と一緒。負け方によって評価が違う)
* 自分達より上のランクのチームと戦った記録がどれだけあるか。
* 自分達より下のランクのチームと戦った記録がどれだけあるか。(この二つはいずれも、弱い相手ばかりとスケジュールを組んで見かけだけ勝っているように見える学校が過大評価されないために設定されている基準)
 
 などです。


 というわけで、事実上選考基準が非公開のため、ブラックボックスの中で決められているようなイメージを持ってしまいます。まぁ、初めての方でも判りやすいようにここではある程度の選考の基準をあげておきましょう。

(1) APやESPN/USA Todayのカンファレンストーナメント直前のランキングで25位以内にランクインされていること。
* ここにランクインされていれば、その大学は誰の目から見ても「実力がある大学」と評価されている訳ですから、まず選考漏れの心配はありません。故に、ランクインされている大学はカンファレンストーナメントではそこそこに流してゲームをする場合も出てきます。
 逆にランクインしていない大学はカンファレンストーナメントに優勝するしかNCAAトーナメント出場の機会がないために必死で勝ち上がろうとします。カンファレンストーナメントでアプセットが多いのはこの気迫の差が出るためです。

(2) パワーカンファレンスに所属していること。
* 個々のカレッジチームのランキングも重要ですが、どれだけ強いリーグに所属しているか、というのも大きな選考の要因となってきます。メジャーカンファレンスの大学が毎年複数校選ばれるのはこのためです。RPIにも個々の大学のランキングの他にもカンファレンスのパワーランキングも存在し、これもNCAAトーナメントの出場校を決める大きな鍵となってきます。


● On The Bubbleとは?
 このNCAAトーナメントの出場校を決める際に、トップ25にも選ばれず、シーズンに10敗以上している、NCAAトーナメント出場が危ぶまれるチームのことをOn the Bubble(オン・ザ・バブル)と言います。文字通り、バブル(泡)の上にいて、選ばれるか選ばれないかの瀬戸際にいる状態のことであり、毎年NCAAセレクションショーではそういったOn the Bubbleチームの様子を中継し、選ばれて狂喜乱舞するチームと選ばれなくて落ち込みの極度に達するチームの様子が全米のお茶の間に流れます。
  さて、このOn the Bubbleチームになった場合、一体何が出場への決め手となるでしょうか?
  彼らの勝ち数は大差ありません。故にまずはスケジュールの強さが問題となってきます。どれだけメディアのランクで25位以内に入っているような強い大学と戦って、勝ちをおさめたか、もしくはどういう負け方をしたか。これがまず第一の選考基準。

  もう一つは、これはNCAAの選考委員会としては「そんなことはない」否定するでしょうが、「カレッジバスケットボールの伝統校であるか否か」。NCAAは非営利団体を自称していますが、結局の所は経営が行き届かないマイナースポーツを成り立たせていくために、メジャースポーツであるフットボールやバスケットボールでなるべく利益を上げようとします。NCAAが最も利益を上げているイベントであるところのNCAAトーナメントに、「名の売れた」大学を出場させることは、そうではない中堅大学を出場させるよりも、観客動員数や、NCAAグッズの売り上げといった点で遥かに全体の売り上げに貢献します。そういった意味で、UCLAやデューク、カンザス、ノースカロライナ、ケンタッキー、インディアナといった「名の売れた」大学がOn the Bubbleになった場合にひいきを受けるのはNCAAの体質上仕方がないことかもしれません。



●65番目の不幸な子供
 さて、先述しました65校に増えてしまった理由。
 2001年のNCAAトーナメントから従来のすっきりした64校から1校増えて65校になってしまいました。この原因はMountain West Conferenceの創設によるもの。NCAAの規定により、新しいカンファレンスが創設された場合、その最初の年はオートマティック出場権が与えられないため、2000年に創設のMountain Westは2000年のNCAAトーナメントには自動的な出場権(オートマティック出場権)が与えられませんでした。
 これが2001年になってこのカンファレンスにも自動的出場権が与えられるようになり、結果としてオートマティック31、セレクト34、合計65というややこしい状態になってしまったわけです。
 さてこの65校、どうやっても2では割り切れないため、無理矢理にでも2で割れる数字にしなければいけません。今年の場合、これをどう解決したかといえば、Midwestの第16シードのスポットをサウスランドカンファレンスのトーナメント優勝校であるノースウェスタンステイトとビッグサウスカンファレンスのトーナメント優勝校であるウィンスロップの2校で争い、64校にする、という形を取りました。
  ノースウェスタンステイトとウィンスロップは共に前述したようにマイナーカンファレンスの所属。どのようにしてこの「余分な1つのゲームを戦わなければいけないチーム」に選ばれたか、と言えば、NCAAの出したカンファレンスRPIでそれぞれのカンファレンスが30番目と31番目、つまり「最も弱いカンファレンス」と判定されたためでした。
 このことに関しては「メジャーカンファレンスもマイナーカンファレンスもNCAAとしては同等に扱おう。アスリートへの待遇に優劣はない」と取り決めたNCAAの規定に反するのではないか、との反論も多くあるところです。WOG個人的には、こういう無駄なことをするのだったらセレクトを一つ減らしてオートマティック31、セレクト33に仕切り直せばよいのに、と切に思うのですが。



4-2 シードについて

 さて、次はシードの決め方。第1シードについては非常に分かりやすいのでここで簡単に説明します。
 NCAAトーナメントはEast(東部地区)、West(西部地区)、Midwest(中西部地区)、South(南部地区)の4つ、各16チームに便宜上分かれていますが、この地区名が関係してくるのはあくまで第1シードのみです。他のシードの学校はいくら学校の所在地が東海岸にあっても、組み合わせによって西海岸の端まで行ってゲームをしなければいけない場合が多いのです。
 例えば2001年の場合を見てみましょう。Pac10でレギュラーシーズンに優勝したスタンフォードはメディアのランキングでもその週は堂々の1位を守ってきたため、彼らには学校の所在地(カリフォルニア州パロアルト)に一番近いWestの第1シードのスポット(会場は同じカリフォルニア州のサンディエゴ)を与えられました。そして、RPIパワーランキングで1位にランクされたACCのカンファレンストーナメントで見事優勝したデューク(ノースカロライナ州ダーラム)もやはり一番近いEastの第一シード(会場は同じノースカロライナ州のグリーンズボロ)の座を獲得しました。2001年の場合、残りのSouthとMidwestはRPIのカンファレンスパワーランキングで2位となったBig Tenからの2校、ミシガンステイトとイリノイが選ばれましたが、これはいずれもランキングの関係であって、必ずしも所在地から非常に近い所を選ぶことが出来た、というわけではありません。(しかしながら2000年の場合を見ると、元々のランキングも高く、Big TENのカンファレンストーナメントでも優勝を収めたミシガンステイトは学校の所在地(ミシガン州イーストランシング)から最も近いMidwestの1位シード(ミシガン州オーバーンヒルズ)のスポットを与えられました)
 これ故、NCAAトーナメントの1-2回戦が行われる会場は大体5年ぐらい前から既に決まってはいるのですが、具体的にどこの大学が訪れて対戦するのかは、直前の週にならないと判らないのです。元々そこまで決めてしまったら、第1シードに与えられた「所在地に一番近い会場を選ぶ権利」までなくなってしまうからです。


●一番近い開催場所?
 2001年のNCAAトーナメントでは西地区の決勝戦がカリフォルニア州アナハイムで行われました。しかしながら決勝に残ったのはカリフォルニア州から千何百マイルも離れたワシントンDC近郊にあるジョージタウン大学とメリーランド大学でした。2002年のNCAAトーナメントではこのような「ホームタウンから離れすぎた大学同士の対戦」を避けるために「ホームタウンに近い開催地に上位シード(大体第4シードまで)の大学は行けるように、という対応策を試みました。ホームタウンから近い場所に配置されることによってプレイヤーやチームスタッフの移動の労が軽減され、また、ホームタウンに多いチームのファンも移動しやすくさせるための策なのです。これにより、2002年のトーナメントでは名目上は「西地区(west region)」でも開催場所はペンシルベニア州ピッツバーグ(ここはもともと東地区の1-2回戦の開催場所として開催予定表には記載されている)になったり(これは第1シードのシンシナティに地の利を与えるため)、名目上は「ミッドウェスト地区」でも開催場所は西地区として予定されていたカリフォルニア州サクラメントで1-2回戦の一部が開催されたり、という形に変更されたわけです。
 しかしながら、これもまた実施された後で問題が生じました。つまり「どこまでのシードの学校に開催地を有利に配置させるか」と「ホームタウンに近い学校が有利になるのではないか」の2点です。
 2002年のNCAAトーナメントでは会場、及び参加校の配置で有利になった学校と不利になった学校の一覧は次の通りです。(有利になった=ホームタウンが開催地から近い学校は青字、不利になった=ホームタウンが開催地から遠い学校は赤字。#の後はシード順位です)
East: ワシントン DC メリーランド(#1)、UConn(#2)、NCステイト(#7)、セントジョーンズ(#9)
セントルイス ケンタッキー(#4)、マーケット(#5)、タルサ(#12)、ヴァルパレイゾ(#13)
シカゴ テキサステック(#6)、ジョージア(#3)、サザンイリノイ(#11)、マレイステイト(#14)
Midwest: セントルイス カンザス(#1)、ウェスタンケンタッキー(#9)、スタンフォード(#8)
シカゴ イリノイ(#4)、フロリダ(#5)
ダラス テキサス(#6)、ミシシッピステイト(#3)
サクラメント オレゴン(#2)、ペパーダイン(#10)、ウェイクフォレスト(#7)
South: グリーンビル デューク(#1)、アラバマ(#2)、シャーロット(#9)、オクラホマステイト(#7)
サクラメント USC(#4)、インディアナ(#5)
ピッツバーグ ピッツバーグ(#3)、UPenn(#11)、カリフォルニア(#6)
West:  ピッツバーグ シンシナティ(#1)、UCLA(#8)
アルバカーキ アリゾナ(#3)、ゴンザガ(#6)、オハイオステイト(#4)、マイアミ(#5)
ダラス オクラホマ(#2)ゼイビア(#7)

 このうち、青字で示した大学チームの1-2回戦の勝率は 全53試合中39勝で勝率74%ですが、赤字で示した大学チームの1-2回戦の勝率は全21試合中10勝で勝率は48%に落ちてしまいます。もちろん、これは1位シード2位シードの圧倒的な強さも勘定に入れて青字の勝率は大目に見なければいけないとは思いますが、例えば2002年のビックテントーナメントで優勝しておきながら遠く離れたアルバカーキでゲームをさせられ2回戦負けしたオハイオステイトと、同じビックテントーナメントでそのオハイオステイトに準決勝で負けておきながらホームに近いシカゴでゲームをしてsweet16に進んだイリノイは、果たしてイリノイにそこまで有利にさせるようなことがあっていいのでしょうか。また、同じく2002年のブラケットではNCAAトーナメント前にメディアランキングでは一ケタ台につけていながら第6シード、しかもホームタウンから離れたニューメキシコ州アルバカーキに回されて1回戦負けをしたゴンザガと、ホームステイトでゲーム出来て、遠いところから来た上位シード校をアプセットしてsweet16に進めたサザンイリノイとの差は一体何のために設定されたのか、理解に苦しむところではあります。

●リージョン名変更(2004年NCAAトーナメントより)●
 2004年のトーナメントより、East/South/Midwest/Westと名づけられていた各リージョンの名称が変わりました。リージョナルファイナル&セミファイナルが行われる会場の名前を冠するように変えられた模様です。で、2004年のリージョン名とそれまでのリージョン名を無理矢理対応させるとしますと、

East Rutherford = East
Atlanta = South
St. Louis = Midwest
Phoenix = West

 となるわけです。このリージョン名、確かに「なんでUConnなんて東の果てのガッコがWestのチャンピオンなんだ」とかいう形容矛盾は防げるんですけど、何せ開催地域によっては以前のリージョン名より長くなってしまうので(特にEast RutherfordなんてJay Bilas(=ESPNの解説者です)とかが露骨に言いにくそうにしていたので・苦笑)、あんまりメディア的には受けは宜しくないようです。というわけでこのリージョン名、あんまり定着することはなく終わってしまうような気がしてなりませんが、とりあえずは2005年以降もこの名称が続けられるようです。


  さて、これからは各シードの話に移ります。大体第2シードや第3シードはメディアのランキングに入っていて、かつカンファレンストーナメントで優勝、もしくは準優勝した学校がおさまります。第4シードや第5シードになるとカンファレンストーナメントでは早い段階にまけたものの、ランキングでは25位以内に入っている学校が多くなります。
 そして第6シードから第9シードになると、力の落ちるメジャーカンファレンスのトーナメント優勝校や、力の強いカンファレンスで上位の成績をおさめた学校、もしくはOn the Bubbleでぎりぎり選ばれた学校が入ります。
 第10シードから一番最後の第16シードまでは8割方マイナーカンファレンスのカンファレンストーナメント優勝校が入ります。この段階でのシード順位の高低はNCAAによるカンファレンスRPIランキングによります。つまり、NCAAによって「弱いカンファレンス」と評価されたカンファレンスほど第16シードになり、最初に第1シードの強豪校と当たらなければならなくなります。
 シードについては大体上記のように決められていますが、その中での具体的な順位ははっきりとした基準はありません。地区的に長い距離を移動しなければならないチームは相対的に高いシードを与えられて、少しでもチームの負担を減らすようにされてますし、逆に移動距離が短いチームは実際のランキングがもう少し高くてもシードは低めになっている場合が多いです。
  さて、対戦順序ですが、基本的に「シードの一番いいチームがシードの一番悪いチームと対戦を始める」を念頭に置いておいて下さい。故にシードを数字で表すならば、
1-16 / 2-15 / 3-14/ 4-13/ 5-12/ 6-11 / 7-10/ 8-9
 のように、各チームのシードの数の合計が17となる組み合わせで1回戦を行います。次の2回戦は、1-16の勝者と8-9の勝者、2-15と7-10の勝者、と言うように、上の数字のはじっこから2つずつ取っていきます。
 トーナメント表についてはこのように図にした方が分かりやすいかも知れませんので、ここにリンクしておきます。因みにこのようなNCAAトーナメントの図のことをBracket(ブラケット)と言います。(参照した図は2000年の男子トーナメントのものです。)


● アプセット/シンデレラ
この1回戦や2回戦で下のシードのチームが上のシードのチームを破ることを「Upset(アプセット)」といいます。特に第15シードのチームが第2シードのチームを破った場合などには「全く注目されてなかった大学がいきなり強い大学を破った」ということを物語の喩えを使って「シンデレラ」と言われることもあります。特にそのアプセットしたチームが2回戦、またその次、と勝ち進んだ場合は、その大学は「シンデレラストーリーを歩んでいる」とも表現されます。1999年、エリート8まで進んだゴンザガは「シンデレラストーリー」の典型例です。

 以上の記述を見ても判るように、NCAAトーナメントの選考、そしてシードの選定に絶対的な基準はなく、全てNCAAトーナメント選考委員会の恣意によって決定されています。故にNCAA選考委員会による細かいところでの意図的な調整や話題づくりはNCAAトーナメントの収入を少しでも増やすための常套手段として行われています。
 例えば、2001年のトーナメント、東部地区でのデュークとマンマスの勝者とジョージアとミズーリの勝者が当たるようにしたその選定の仕方はどう考えてもジョージアをないがしろにしてデューク対ミズーリという「名コーチ対そのコーチの元教え子(シャセフスキー対スナイダー)」というメディアが喜ぶ「ドラマ」を成立させるため、としか思えなかったし、またこれは実現はしませんでしたが、中西部地区でのアリゾナとイースタンイリノイの勝者とバトラーとウェイクフォレストの勝者が当たるようにしたカード選定も、アリゾナのスターセンターであるローレン・ウッズが元々在籍していたウェイクフォレストと当たることによる「過去のしがらみ」を実現させてメディアを喜ばせるための仕掛けでした。
 また、すぐ上でシンデレラやアプセットについて書きましたが、NCAAは、メディアが喜んで報道するシンデレラやアプセットを「起きやすいように」カード選定することもあります。2000年のゴンザガに対するシード選定はどう考えても「ゴンザガを勝たせるため」としか思えないような対戦カードでしたし、アプセットと見せかけるためにわざとシードを落としていると思われるような選定の仕方も散見されました。
 こういったことに関して、NCAAを商業主義だと批判するのは誰にでもできます。しかしながら、前述したようにDivision Iの参加校が膨大な数に上ること、各大学がそれらひとつひとつと当たるわけにはいかないことなどを考え合わせると、ある程度までのNCAAの恣意的な介入操作はやむを得ないと言わざるを得ません。批判されるべき点は多いですが、とりあえずNCAAバスケットボールに関しては、NCAAフットボールのボウルゲームの選定と、それに伴う最終ランキングの仕組みよりは遥かに実際的、客観的に行われていると言うことが出来ます。(ボウルゲームが何だとかNCAAフットボールの仕組みがどうなっているとか、そこまでWOGには解説する気力も紙面も知識もありませんので、その辺はフットボール専門サイトか雑誌でお調べ下さい。)


4-3 各地区のゲームの呼び方について

 1回戦、2回戦は英語でも1st round, 2nd roundとそのまま使いますが、その後は「3回戦」ではなくて「地区準決勝(regional semi-final)」と言う言葉を使います。これはNCAAトーナメントが4つの地区を基準にして展開されるからであり、また同時に、最後の4つに残ることがNCAAバスケットボールの世界では名誉と考えられているからです。
 因みに「地区準決勝」はNCAAが公式に用いる名称であり、メディアの世界では、この段階で16校が残っていることから"Sweet 16"(スウィート・シックスティーン)と呼ばれます。また、Sweet 16を経て「地区決勝戦(Regional Final)」に残った8校のことは俗には"Elite 8"(エリート・エイト)と呼ばれています。そして、地区決勝を勝ち残った4校のことを"Final Four"と呼び、地区のチャンピオンとして楯が与えられ、コーチングスタッフとプレイヤーにはネットカッティングが許されるなど、優勝並の大きな栄誉が与えられます。勿論、優勝も名門校の基準ではありますが、カレッジバスケットの世界ではむしろどれだけファイナルフォーに残ったか、というのがその学校のバスケット名門度を表す基準とされています。
 そしてファイナルフォーの4チームが集まるのがNational Semi-Final。俗に言う「ファイナルフォー」というのはこの2ゲームを指します。
 さて、この4チームの組み合わせですが、毎年変わります。2001年は
East-West / Midwest- South
の組み合わせでしたが、毎年そうではありません。2000年は
East-South / West-Midwest
でしたし、その前の1999年は
East-Midwest / West- South
で、更にその前の1998年は
East-West/ Midwest-South
と、2001年と同じ組み合わせになっています。つまり4年ごとに同じカードになるようにローテーションしている、というわけですね。というわけで2002年のファイナルフォーの組み合わせはEast-Midwest / West- Southの組み合わせになる、と答えが導き出せます。

 さて、このファイナルフォーを勝ち抜いた2チームがいよいよ争われるのがNational Championship。ここまで来ると勝ち残ったチームの所属する大学の熱狂度は尋常ではなく、警察や機動隊まで出動して取り締まる、ということもざらではありません。
 そしてここで勝ったチームがとうとう優勝、全米大学チャンピオンの座を獲得するわけです。

 どうです、すごく道のりが長いでしょう?これらのことが3月から4月にかけて、たった3週間で起きてしまうのです。March Madnessと言って全米が大熱狂するのも判りますよね。


5.NCAAカレンダー

以下はNCAAの1年の流れを大まかに表したカレンダーです。ご参照下さい。

8月中旬〜下旬
 大学の授業開始
* プレイヤー達は個人練習やウェイトトレーニングのみ許される。この時期にチーム練習をすることは許されない。

10月第2週の土曜日午前0時1分 
 NCAAによって許されたチーム練習開始
* この時ようやくチーム練習が解禁される。故にこの時に合わせてバスケットボールイベントを開く大学チームも多く、そのイベントは「マーチマッドネス」をもじって「ミッドナイトマッドネス」とも言われる。
  ミッドナイトマッドネスを開くか否かは大学によって、またコーチによって違い、大学やコーチがイベントを好むタイプであれば開くし、伝統や慣例を重んじるタイプであれば開かない。テンプルはジョン・チェイニーが早朝練習の習慣を崩したくないがためにミッドナイトマッドネスは一切行っていない。また、UNCはマット・ドアティ氏がヘッドコーチになってから、チームとして初めてミッドナイトマッドネスを開いた。


10月中旬〜11月上旬
 エキジビジョンゲーム
* この時期にはチーム練習は解禁されるが殆ど正式なゲームは行われない。チームのプレイヤー同士の紅白戦や近隣のアマチュアチーム相手の肩慣らし程度のゲームを開催し、ファンに今年のチームの出来具合や新しいプレイヤー達を見てもらう時期にあたる。故にベンチメンバーや新入生の出場機会が非常に多い時期でもある。

11月中旬
 レギュラーシーズン開始
* レギュラーシーズンのゲームの始まり。大体スケジュール的には11月の第2週に行われるCoaches vs. Cancer IKON Classic(NYのMadison Square Gardenで行われる)がシーズン最初の本格的なNCAAゲームであり、このゲームは全国向けにテレビ放送される。

11月下旬
 冠トーナメント
* Maui Invitational、Great Alaska Shootout、Preseason NITなど、全米各地の別々のカンファレンスに所属する有力大学を8〜16校、ハワイやアラスカ、プエルトリコなどに集めて行うトーナメント。レギュラーシーズンはじめとはいえ、ここに集まる相手はいずれも強豪校が多く、後々NCAAトーナメントでも再び当たることが多いので、彼我の小手調べの意味でも非常に重要なトーナメント。夏の間、休みとはいえ、半強制的に練習をさせられているようなものであるプレイヤー達にとっては、これらのトーナメントは絶好の息抜きであり、観光がわりの役割をも果たしている。また、ハワイやアラスカなどの産業が限られた地域にとっては、このトーナメントによる地元への資本投下が地域の重要な収入源にもなっている。

!Recent News!
NCAAではこの時期のトーナメントの廃止を議決する方向に向かっている様子である。それというのも、彼らの訴える1シーズン29試合という理想が、このトーナメントによって「必要以上のゲームを大学チームがこなしている」と映っているため。特にPreseason NITは16チームも参加するために、必然的に決勝まで進んだチームは他のチームよりも2-3ゲームは多めにゲームをしていることになってしまうため、NCAAによる批判の矢面に立たされている。
 しかしながらここでPreseason NITを廃止してしまうと、NCAAトーナメントの時期に選ばれなかった大学によって開かれるPostseason NIT Tournamentまで廃止にせざるを得なくなってしまう。というのも、NITは組織としてPreseason NITの収益にその活動資金の多くを依存している現状であるため。
 故にこのNIT問題、冠トーナメント存続については各大学チームからNCAAの独断的決断をなんとか阻止しようとする声が多い。


12月初旬〜下旬
 オーバーカンファレンスゲーム
* 自チームとは所属の違うカンファレンスとのゲームを開く期間。大体強豪カンファレンスのチームはマイナーカンファレンスと当たったり、また、上記のトーナメント以外の小さな冠トーナメントに出場したりして勝ち星を増やす時期。しかしながら、それだけでは面白くないために、この時期にはACC/Big TEN Challengeなどの企画モノを立てて、強豪カンファレンス同士を戦わせたり、単発的にカンファレンスの違う名門校や強豪校同士が対戦する企画を立てたりして(UNCの場合だと対ケンタッキー戦や対コネティカット戦)カレッジバスケットの雰囲気を盛り上げて行く時期にあたる。

12月下旬〜2月下旬
  カンファレンスゲーム
* カンファレンス内でのリーグ戦が行われる時期。NCAAのシーズンの中では所属大学の学生達がもっとも盛り上がる時期。特にスーパーボウルが終わった次の週をESPNでは"Rivalry Week"と称してデューク対ノースカロライナなど、カンファレンスの中でのライバル校同士の対戦をたて続けに放送し、フットボウルの熱狂がさめかけたスポーツファンをむりやりカレッジバスケットボールの熱狂に引き込ませようとする。大学によってはこの時期でも単発的にオーバーカンファレンスのゲームを行っているところもある。
  このカンファレンスゲームでライバル校に勝った場合、また自分達よりランクが上とされる大学に勝った場合、ホームゲームであると、学生観客が一気にコートに押し寄せるStormingが起き、その日には学生街でBonfireが焚かれるなど、大騒ぎになる。


3月第1週(暦によっては2月の最終週の週末)
 マイナーカンファレンスのカンファレンストーナメント
* メジャーカンファレンスより一足先に行われる。ここで優勝した大学チームは自動的にNCAA出場権を得られる。(詳しくは「NCAAトーナメントについて」の欄を参照)因みにカンファレンストーナメントは別名Postseason Tournamentとも呼ばれ、レギュラーシーズンとは別の扱いをされる。(しかしながらチーム成績にはこのトーナメントでの成績も加算されるので誤解のなきよう)

●Big Dance
 こうしたマイナーカンファレンスのトーナメント優勝校がNCAAトーナメントへのキップを手にしたとき、よく「彼らはビックダンスを得た」と表現される場合が多い。勿論、「ビッグダンス」はそれ以外にも、メジャーカンファレンスのカンファレンストーナメント優勝校やファイナルフォー出場校が勝利を勝ち得たときの喜びを表すときにも使われる。実際、優勝した学校のメンバーがテレビの前で有頂天になって踊りまくる姿は3月の風物詩の一つだ。

3月第2週(暦によっては3月第1週)
 メジャーカンファレンスのカンファレンストーナメント
* ACC、Big TEN(2002年からはPac10も)などのメジャーカンファレンスがこの時期にトーナメントを行う。トーナメントの参加については全チームが参加できるカンファレンスとトーナメントが開催しやすいようにトーナメント参加校に制限を設けるカンファレンスがある。参加校により開催期間は3-4日と開きがある。
  尚、カンファレンストーナメントを行う所と行わない所の差は、カンファレンスの方針によるもの。大体カンファレンストーナメントは、カンファレンス内にある大きな都市の大きなアリーナを借りて行うために、実際の所はプレイヤーやコーチのためというよりは、参加大学とカンファレンスの財政を潤すためにやっているところが殆ど。Pac10も名門としての矜持を維持するために今まではカンファレンストーナメントをやってこなかったが、流石に金の力には勝てなかった、と言ったところか。


3月第3週の日曜日東部時間午後6時(暦によって第2週になる場合も)  NCAAトーナメントセレクション
* この時刻までに各カンファレンスのトーナメント及びレギュラーシーズンのゲームは全て終了する。そして先述したように(「NCAAトーナメントについて」を参照のこと)NCAA選考委員会が合議して参加校、各シードを決定する。この時間はCBSとESPNともに"NCAA Selection Show"という番組を放映して、組み合わせやOn the Bubbleチームの様子などを中継し、NCAAトーナメントへの雰囲気を盛り上げていく。

以下、NCAAトーナメントの毎年のスケジュール。
暦によって1週間繰り上がったりする場合もありますのでご注意下さい。

3月第3週の木曜日〜金曜日 NCAAトーナメント1回戦
3月第3週の土曜日〜日曜日 NCAAトーナメント2回戦
           *ここでSweet 16が出揃う。
3月第4週の木曜日〜金曜日 NCAAトーナメント地区準決勝
           *ここでElite 8が出揃う。
3月第4週の土曜日〜日曜日 NCAAトーナメント地区決勝
           * ここでFinal 4が出揃う。
3月第5週(ない場合は4月第一週)の土曜日 NCAA Final Four
4月はじめの月曜日     NCAA Championship

●NITトーナメントについて
 NCAAトーナメントの裏番組としてNITトーナメントと言うモノが開催されます(先述したようにNITトーナメントはいま存亡の危機にありますが…)。
  これはNCAAトーナメントから漏れた32校(その殆どがテレビ放送の多いメジャーカンファレンスに所属する大学チーム)が選ばれてトーナメント形式で勝ち上がっていくもの。(故に強豪カンファレンスのレギュラーシーズンのゲームでは「NIT」は「弱小校」と同じ意味で使われ、ホームゲームでの相手を罵倒する言葉としてもよく用いられます)NITはNCAAトーナメントの行われる週の前半、月曜日から水曜日にかけて行われます。1回戦から3回戦までは各大学のアリーナを借りて行います。この場合のホームとアウェイの分け方は、よりRPIランキングが高いと想定されている大学にホームコートアドヴァンテージが来るやり方によっています。
 そして4校揃ったところでNYのマディソン・スクエア・ガーデンでNITの準決勝と決勝が行われます。勿論、このNITトーナメントは「NCAAに出られなかった」という口惜しさもあり、どうしてもモチベーションは低くならざるを得ませんが、ここで優勝したチームの多くは次のシーズンにはNCAAトーナメントでかなりいいところまで勝ち進む所が多く、次のシーズンへの足がかりとすることが出来ます。とはいえ、最近はNITに出場したぐらいでアーリーエントリーしてしまうような困ったちゃんなアンダークラスメンもいるので、この基準が絶対的かどうかは何とも言えませんが。

●シーズンの終わり
 「ミッドナイトマッドネス」に象徴されるように、カレッジバスケットのシーズンは一斉に始まるが、シーズンの終わりとなると、チームによってまちまち。カンファレンストーナメントに出場制限を設けているカンファレンスでは、カンファレンストーナメントに選ばれなかったチームはそこでシーズンエンドであるし、また、カンファレンストーナメントを行わないカンファレンスではNCAAトーナメントやNITトーナメントに選ばれない限りレギュラーシーズンの最後がシーズンの最後になる。
 シーズンの終了と共にチームはNCAA規定によりチーム練習ができなくなるためにこの時期早々とシーズンが終わってしまったチームのプレイヤーは週末に束の間の休日を楽しむことになる。シーズンの終了から次のシーズン開始のミッドナイトマッドネスまではプレイヤーは個人練習やウェイトトレーニング、また、故郷に帰って地元の出身高校での高校生や中学生のバスケットボールキャンプでの指導や、またカレッジプレイヤー、NBAプレイヤーとのピックアップゲームに汗を流すプレイヤーも多い。トップレベルのプレイヤーになると全米ジュニア代表などに参加して国際試合を経験する者もいる。故にこの時期は大学で所属プレイヤーをつかまえることは難しい。


6. ランキングについて


 NCAAトーナメント出場校の選考の為に考慮されるRPIについては先述したとおり、関係者以外には非公開なためにランクがどうなっているかは一般のファンの目には見えにくい。
 そこで、ファンにもランキングを目に見える形で示そうとする試みが大手メディアによってシーズン中に行われる。これがメディアランキングと言われるもので、通常ファンやメディアがランキングと言ったときはこのランキングのことを指す。
 メディアランキングにはAP(共同通信)ESPN/USA Today(スポーツ専門放送局と全米マーケットの新聞共催)があり、ABCやESPNのテレビ中継ではESPN/USA Todayが使われ、CBSのテレビ中継ではAPのランキングが使われる。テレビ中継の際に各チームの得点ボードのチーム名の横に出てくる数字はこのランキングを表す。故にメディアによって多少ランキングに差が出てくることもある。
 ランキングはAP、ESPN/USA Today共に1位〜25位までをランクし、毎週日曜の夜(ESPN)もしくは月曜日の朝(AP)にランクが発表される。ランクの基準は勝ち負けの数であり、ある週に1位にいたとしてもその週に負けてしまえば2位以下に転落してしまう。ランクの期間は11月の第2週の月曜日に発表されるのを第1週のランキングとして、以降毎週ランキングが変わり、最終的にはNCAAトーナメントが終わった後に最終ランキングが発表され、殆どの場合NCAAトーナメント優勝校が1位を飾る。
 また、11月の第一週の月曜に発表される最初のランキングはプレシーズンランキングとも言われ、この時点での選考基準は飽くまでも「評判」に頼らざるを得ない。つまりチームケミストリー云々よりも、どれだけ個人能力が優れたプレイヤーを擁しているかが評価基準となってくる。このため、個人能力が高くてもケミストリーに優れず、負け星を重ねるチームはシーズン前にはランクインし高い評価を貰っていても、シーズンが進むにつれてランキングの順位が下がり、最後にはランク外、となってしまうチームもある。
 さて、2種類あるランキングだが、どのように違うかを説明しよう。

▼ AP Ranking
  全米のバスケットボール記者72人による投票で決まるランキング。1位票には1位マークと得点25点、2位には24点、3位には23点…と続き25位には1点のポイントが与えられ、72人の合計によってランキングが決められる。投票結果の順位で、大学名の横に時々数字がカッコ入りでついていることがあるが、それは1位票の数を表すものである。ESPNに比べて実際のゲーム結果(勝ち負け)が覿面にランクに反映されやすい。

▼ ESPN/USA Today ranking
 Division Iに所属する各31カンファレンスで、毎週1人、持ち回りで決められたヘッドコーチ31人が日曜日の夜に電話でESPN宛に投票するもの。投票の方式はAPと同じで1位にマークと25点が加算される方式。大学名の横のカッコ内の数字は同じく1位票の数。APに比べ、カンファレンスの力(これによってNCAAトーナメントの出場校やシード順位も変わってくる)を気にするコーチ達のこと、なるべく自分のカンファレンスに優位になるように投票するため、実際のゲーム結果よりはネームバリューがある大学が優遇される傾向にある。
 ESPN/USA Today Pollの密かな楽しみ方としては、25位までのランキングを見るよりも、そのランク外でどの大学が得票しているか、というOthers Receiving Votesを見ること。時々「ええ?そんなの得票する資格なんてないでしょ!!」という大学がのうのうと得票している場合、それは十中八九その大学が所属するカンファレンスから選ばれたコーチがお情け的に入れている。故に、どの大学がどれほどのお情けをカンファレンスのお仲間から貰っているか、というのを見ることができるのだ。
 APの場合もそういう下の方のランキングを見ると実力不相応に票を貰っている大学があるが、そういう場合は大体全米の各地の記者が、それぞれの地元の大学に投票しているため、という場合が多い。


 先述したが、これら2つのランキングは飽くまでもレギュラーシーズン中のファンへの目安として発表されるのであって、NCAAが独自に選考基準のとしているRPIランキングとは全く関係がないことを注意されたい。

 また、ESPNやCBSなどの大手スポーツメディアはこれとは別にファンによるインターネット投票を行い、ファンの参加を積極的に呼びかけている。


7.NCAAのルール

 NCAAバスケットボールと一口に言っても男子と女子では若干の違いがある。ここでは女子にも男子にも共通する、NBAルールとは違う点だけを挙げておいて参考として貰いたい。尚、本気でNCAAで施行されているルールを全部解説しようとするとこの紙面では足りないぐらいにやたらと長くなるので、その辺は各自でやって欲しい。因みにプレイに関するルールについてはこちら(英語のNCAA公式サイトのルールの欄)を参照のこと

1.試合時間など
 前後半制。ワンハーフが20分。タイムアウトの数はテレビ中継が入る場合と入らない場合で違う。延長は1回が5分間。また個人がファウルできる数は5個まで。ファイブファウルとなった時点でアウトになる。

2.ショットクロック
 35秒。インターナショナルルールだと30秒だが、それ以上にNCAAは長くショットクロックを設定している。これはシステムを重視するNCAAの考え方によるもの。35秒あると、少なくとも10秒バックコートで手間取ったとしてもあと25秒をハーフコートで使えることになり、3回はセットプレイのリセットが可能である。NCAAでは決められたセットプレイと動きをプレイヤーにきっちり学習させることを第一目的としているため、長めに設定してある。

3.ゾーンディフェンス
 これも「決められたセットプレイをきっちり学ばせるため」という目的の一つ。勿論、NCAAでもゾーンは殆ど使用しないボビー・ナイトのようにコーチによってこのゾーン使用の頻度は違ってくるし、また、ゾーンに対する考え方もコーチによってまちまちであるが、マンツーマンに比べてチームワークを要求されるゾーンディフェンスを経験することによって、フォアザチーム精神がより浸透できる。

4.ジャンプボールの制限
 試合開始と延長戦開始のジャンプボール以外にジャンプボールがないのがNCAAの特徴の一つ。国際ルールではヘルドボールとなった場合にはボールを争っている二人がジャンプボールをすることによって解決されるが、NCAAの場合ジャンプボールは認めない。
 ここで出てくるのがPossession Arrowと呼ばれる、審判がいる席に設けられている器械。まず試合開始のジャンプボールでボールを得たチームとは逆のチームにポゼッションアローが向き、ゲームの中でヘルドボールが起きた場合、ボールはポゼッションアローが向いている方向のチームに与えられる。この場合、その後でポゼッションアローはボールが与えられたチームとは逆の方向に向き直される。
 これにより、残り時間が少なくなった場合のポゼッションアローの向きは非常に重要であり、テレビ中継の中でも、緊迫したゲームの終盤には頻繁にポゼッションアローの向きがどちらか、ということには再三注意が向けられる。

5.チームファウル
 チームファウルは各ハーフ6個まで。7個めからは1&1といって、1本フリースローを成功した場合にのみ2本目を投げる権利が与えられる。つまり1本目を外した場合はリバウンド争いになり、ボールを勝ち取った方のチームにボールの権利が移る。9個目まではこの1&1。
 10個目からは「double bonus(ダブルボーナス)」というアナウンスが入って自動的に2本のフリースローの権利が与えられる。プレイヤーが1本目の時にバンザイポーズをしているのは、リバウンド争いに行かない意志表示。

6. 5秒ルール
 オフェンスする側がハーフラインを越えてストップした場合、相手にフェイスガードされて5秒間身動きが取れなかった場合は5秒ヴァイオレーションとして相手側にボールの権利が譲渡される。NCAAの場合はドリブルをしていても5秒ルールは始まるので注意。因みにボールを持ったプレイヤーの近くにいる審判が交通整理の「行け」信号のようなゼスチャーでカウントをし始めた場合は5秒ルールのカウントが始まった、と考えて良い。


 チームファウルやその他のルールについてはWOGは曖昧なところがあるので間違いがあればご指摘下さい。(何せ、写真撮ってる時なんてそんなもんに構ってられんし、普通に客席いるときもプレイヤーの追っかけに忙しいので/爆)

 勿論、これらのルールはNCAAにおいて絶対的ではなく、毎年のように何らかのマイナーチェンジはあるし、また、カンファレンスゲームに入る前のゲームでは独自のルールをもってゲームをする場合もある。故に毎年最初のテレビ放送のゲームではその年度に改正された点を視聴者に説明をして認識をして貰っている。これについては補遺を参照されたし。


8. NCAA/ その他の用語や仕組み


(1) 学年
大学は日本と同じ4年制だが、日本とは違って1年、2年とは呼ばない。
Freshman (略称Fr.)=1年
Sophomore(略称So.)=2年
Junior(略称Jr.)=3年
Senior(略称Sr.)=4年

以上のように記述するのでよく覚えておくこと。

(2) レッドシャツ (Red Shirt)
 プレイヤーがケガをした場合、または学業成績がプレイをするに足るだけのものを残せなかった場合のプレイヤーに対する措置に使われる言葉。1年間公式ゲームには出られず(チーム練習には参加できる)、プレイの成績も残らない代わりに、その学年のままレッドシャツ期間は過ごすことが出来る。主に、カンファレンスゲームが始まって2,3ゲーム目の時期まで(勿論プレシーズンも含む)にケガをしてしまったプレイヤーの多くはレッドシャツにしてそのシーズンの残りのゲームをベンチで見学の扱いになる。その場合例えばケガをしたときに2年生だった場合は、レッドシャツになると、次のシーズンも2年生の扱いでプレイが許される。これはカレッジのプレイヤーとしてプレイできる年限がきっかり4年間であるために、ケガの場合と勉学不振の場合を考慮して編み出された措置。プレイヤーはカレッジのキャリアの中では1回レッドシャツになることが出来る(モルモン教のミッションによる活動などの特別な場合を除く)。
 レッドシャツにはAcademic Red ShirtとMedical Red Shirtがあり、後者がケガをした場合のレッドシャツ、前者は大学での学業成績や、大学入学の際の学業成績が足りなかった場合のレッドシャツでAcademic Probationとも言われる。

(3) SAT
 Scholastic Aptitude Testの略。日本語だと「大学進学適性試験」と訳される。一般的に日本でのセンター試験のようなものと考えればよいが、実際の所は日本のセンター試験のような極端に専門的で難解な問題はあまり出題されないし、年に何回でも受験することが出来る。1600点満点。大体普通の高校生の場合は1100点から上ぐらいのスコアを取ればそれなりの大学に進学できると考えて良い。
 バスケットボールプレイヤーの場合、奨学金を受けてプレイヤーになろうとするプレイヤーだとどうしても学業が追いつかない場合があり、通常の入学生の最低点より更に100〜200点ばかり下に最低合格点が設定されている場合が多い。(アイヴィーの場合はこの特例はない)
 しかしながらトッププレイヤーの中にはこの、更に下駄を履かせて貰っているSATスコアさえクリアできないプレイヤーが多く、高校生からNBAへのアーリーエントリーが最近増えているのはこのSATにクリアできなかったから、という理由が決断のかなり多くを占めている。余談だがユタ・ジャスにいるデショウン・スティーブンソンが最初に受けたSATのスコアが450点だったそうで、そんな点数、鉛筆転がしても取れねぇぞ、一体どうしたらそこまで見事に間違えられるんだ、と思った覚えが。

(4) Fifth-year Senior
  年限の途中にレッドシャツだったり、学業のために最初の1年間プレイできなかった4年生は、5年目も4年生(Senior)としてチームでプレイすることが出来る。大体そのような場合、プレイヤーは学生であることを維持するために、最低限の時間数のクラスを取ってなるべくバスケットに集中できるようにしたり、もしくは4年間で卒業してしまった場合は、大学院に通って所属大学の学生としてのステイタスを整える場合が多い。
 因みに学業不振のために最初の1シーズン(もしくは年限の途中の1シーズン)プレイできなかった学生に対する処置をAcademic Red ShirtedもしくはAcademic Probationと言う。このProbationに引っかかった学生及びチーム、コーチングスタッフがNCAAに請願をかけて承認され、5年目のシーズンもプレイが出来ることになった場合もFifth-year seniorの呼び名が適用される。
 また、最初の1年間にアカデミックレッドシャツになったプレイヤーのことはPartial Qualifierと言って、「部分的に入学を許されたもの」として奨学金を貰い、大学に通うことを許される。入学審査基準は大学によって違うが、大抵の場合はNCAAによって定められたSATの基準点をクリアしていればOK。しかし、強豪大学になると学問の点でもかなりのレベルを要求されるため、SATのスコア以外にもGPA(学校の成績の平均。内申点のようなもの)である程度以上の点数をおさめなければいけない。そのため、この二つのどちらかがその大学の運動部が決めた基準以下であった場合にPartial Qualifierになるケースが多いようだ(Partial Qualifierの事由は滅多に大学側は公表しないのでどれに問題があったか、というのは判らない仕組みになっている)。


(5) Senior Night
 4年生プレイヤーの、所属大学のホームコートでの最後のレギュラーシーズンのゲームのこと。多くの大学では4年間大学のためにプレイしてきた栄誉をたたえる表彰式がゲーム前やゲーム終了後に行われる。

(6) Transfer(転校)
  カレッジプレイヤーにはプレイ期間の途中で、そのチームのやり方にどうしてもついていけなかった場合別の大学に転校することが認められている。多くの場合1年生や2年生のシーズンが終わった後で転校を決めるプレイヤーが多い。転校した場合、NCAA規定により、転校したそのすぐ次のシーズンはレッドシャツ扱いになり、公式ゲームには出場することができない。

(7) JuCo (ジューコー)
 Junior College、日本語にするなら短大のこと。カレッジバスケの名門大学は同時に学業的にも名門大学である場合が多いので、どうしてもSATの点数がそれらの大学の基準に達しない場合、入学の簡単なJuCoへの道を探ることにもなる。JuCoでのプレイの年限は2年、この間に学業面で良い成績をおさめ、またプレイの点でも見事な活躍を収めることが出来れば、4年制大学、つまりNCAA Division I加盟の大学にもJuCoからの転入として認められる。この場合はその次のシーズンから早速プレイすることが出来る。JuCoと同じ扱いにはCC(Community College)があって、こちらも2年生の短期大学。最近はここのレベルからいきなりNBAにアーリーエントリーをかます輩も出てきた。

(8) サスペンション
  NCAA規定に反したとしてNCAA上層部から各プレイヤー、もしくはチームに下される出場停止処分、もしくは降格処分のこと。NCAAは非営利団体であるため、少しでも金の臭いがあるようなところにはたちどころにサスペンションの鉄槌が振り下ろされる。NCAAに所属する大学のプレイヤーはこのサスペンションを常に恐れなければいけない。故にNCAAプレイヤーはどんなに人気があったとしても個人としてCMに出て出演料を受け取ることは出来ないし、遠征先で必要以上の接待を受けることも出来ない。
 最近はそのNCAA規定違反がプレイヤーの高校時代の経歴にまでさかのぼって罰されることも多く、また、その罰されたプレイヤーの多くが将来プロに入って巨額の富を得るだろうと注目されているプレイヤーであるために、NCAAの審査基準を疑う声も少なくない。

(9) AAU
 Amateur Athletic Unionの略。早い話が地方単位の運動少年団のようなもの。NCAAプレイヤーの多くは高校時代にAAUに所属してプレイをした経験を少なからず持つ。勿論所属の高校でもバスケットボール選手として出場しているが、夏の休みの間は高校ではプレイをすることがないために、この時期にAAUが地方の優れたプレイヤー達を集めてチームメイトとしてプレイさせる機会を開く。カレッジの別々のチームのプレイヤーが友人である場合はAAUで一緒にやった仲間である、という場合も多い。
 問題点としてはAAUは地元の有力な人物やマフィアとつながりを持っているため、プレイヤーの私生活に少なからず悪影響を及ぼすことがある点。最近サスペンションになったNCAAプレイヤーの中でも「AAUのコーチからの不自然な金の提供」が原因になっている場合が多い。尚、NCAAとAAUは犬猿の仲で、NCAAは所属するプレイヤーがAAUに参加することを禁止している。

(10) Prep School(プレップスクール)
  日本語に訳せば「大学進学予備校」。しかしながら日本の予備校とは違って、アメリカのプレップスクールは学校法人の4年制の私立寄宿制の学校のことを指す。NCAAチームによる高校生のリクルーティングの時に使われる場合にはもっと広範囲に高校全般をも指す。モーガン・ウッテンのデマーサ・カソリックやスティーブ・スミスのオークヒル・アカデミーなど、多くの有能なバスケットボールプレイヤーを輩出しているプレップスクールには沢山のエリートコースを目指すプレイヤーの卵達が集まる。最近はこのPrep Schoolの高い授業料を誰に出して貰ったか、ということまでNCAAは問題にしてサスペンションの対象にしている。ええかげんにせえっちゅうに。

(11) Recruit(リクルート)
 日本の某会社名ではなく、有望な高校生プレイヤーやJuCoプレイヤーを自分の大学に勧誘すること。極言してNCAAの世界はコーチングシステムとリクルートによって成り立っていると考えても過言ではない。プロリーグのようなドラフト制度はNCAAにはないので、優秀なプレイヤーを自分達で掘り出して必死に勧誘して入学させなければいけない。いくらコーチングが良くても、それだけではやはりチームの力は向上しないのだ。
 勿論NCAAによってリクルートの期間は細かく決められていて、何月から何月まで解禁だとか、その期間には何時間までコーチがプレイヤーの自宅を訪問して良いとか、何時間まで電話で勧誘していいとか、とにかく有職故実のように事細かに決められている(これを違反した場合は当然非常に厳しい処分が待っている)が、ここでそこまで細かく書き出したらそれこそ、最後までこれを読む人間がいなくなってしまうので省略。興味のある人だけ個別に調べて下さい。

(12) Scholarship(奨学金)/Walk-on
 NCAA Division Iのバスケットボールチームには1チーム12人までの奨学金枠があり、学費免除、生活費ほぼ全額補助のスポーツ特待生として奨学金を受けることができる。先述したが、このスポーツ特待生の奨学金を受ける学生の場合、スポーツがまず第一基準になるため、入学試験がわりのSATの合格基準点は他の一般学生よりも低めに設定(下駄を履かせてもらって)されている場合が殆どである。NCAA Division Iではロスターとしては最高15人まで登録が可なので残り3人はWalk-onと言って、自費で大学に在籍した上でチーム入団試験を受けて最終的にパスしたプレイヤーが入ることが許される。しかしながらWalk-onのプレイヤーはスカラシッププレイヤーに比べてどうしても実力が落ちるために、実際のゲームでプレイヤーとしてコートにたつことは殆どない。
 因みにUNCの2000-2001シーズンの場合、14人ロスターには入っているが、実質的にウォークオンは一人もいない。なぜならば、ロナルド・カリーとジュリアス・ペパーズはフットボールの方で奨学金を貰っているプレイヤーだから。フットボールの場合、実際のプレイに参加する人数が多いために許される奨学金の人数も多く、フットボールとバスケットボールの両方をこなすプレイヤーはフットボールでの奨学金が優先的に与えられる。このように、2つ以上のスポーツをプレイする学生プレイヤーは多くの場合、奨学金が許されている人数が多いスポーツの方で奨学金を貰い、もう一つの方ではウォークオン扱いで参加することになる。

(13) ヘッドコーチ
 バスケットボールチームの中での指導者の中核。ここまではどのレベルのバスケットボールでも一緒だが、NCAAは地域密着型のスポーツであるから、ある都市の中心大学のヘッドコーチになった場合、その都市の顔になることも同時に期待されている。このことはバスケットボールがいかにポピュラーなスポーツで、市民に熱狂的に支持されているかを如実に示している。今はテキサステックに移ってしまったが、インディアナ州におけるボビー・ナイトの存在というのはステイトアイコン(州の象徴)と州民に思われており、インディアナ版のラッシュモアマウンテン(アメリカの中で多大な功績を残した大統領の顔が巨大な岩に彫刻されているサウスダコタ州の名物)には絶対にナイトを彫らなければいけないとまで言われていた。
 故にヘッドコーチの交代は大学だけではなく、その大学がある地域の大きな関心事であり、ビジネス色の強いプロチームの交代よりも身近で、そして大きなニュースであるとして地域の中では報道される。

(14) ジョン・ウッデン賞
 カレッジの1シーズンの中で最も素晴らしい活躍を収めたカレッジプレイヤーに与えられる賞。このような賞にはネイスミス・アワードやオスカー・ロバートソン・トロフィーなど沢山あるが、ウッデン賞が一番権威があるとされ、その授賞式の様子は全米中継される。ウッデンは言うまでもなくUCLAの60-70年代の黄金期を築いた名コーチ。と書くとまるで過去の方のように聞こえますがウッデンさんはまだご存命です(苦笑)。

(15) ミスター・バスケットボール
 高校バスケットボールの世界は主に州単位で行われるために、州の最優秀選手は「ミスター・バスケットボール」と言われる。この「ミスター・バスケットボール」を決めるのは州内で一番発行部数が多い新聞であり、ノースカロライナの場合はシャーロット・オブザーバーというシャーロットの新聞が選ぶ州の最優秀高校バスケットボールプレイヤーが「ノースカロライナのミスター・バスケットボール」とされている。

(16) Early Entry/ Underclassmen (アーリーエントリー/アンダークラスメン)
 NCAAで決められた4年のプレイ期間を全うせずに大学の途中でNBAドラフトに名乗りを上げることをアーリーエントリーと呼び、年限以下でエントリーする学生プレイヤーのことをアンダークラスマンと呼ぶ。NCAA規定により、プロの世界にいったん入ったアスリートは二度とそのスポーツではNCAAの世界には戻ってくることが出来ないために、アーリーエントリーをする、と言うことはNCAAの世界を捨てる、ということに等しい。NCAAファンにとっては誠に辛い別れなのだ。
 NBAの世界市場化によるプロバスケットボール市場の金満化によってアーリーエントリーが増えてきたことは誰にも否定できない事実。口をすっぱくして言うようだが、日本のNBAファンが何も知らずに道義的な理由だけでアーリーエントリーの風潮を否定することは、自分達がその片棒担いでおいて、いけしゃーしゃーと聖人君子のような顔をして正論振りかざすのと同じ。これは自分で自分の首を絞めていることに等しい行為なので、もうちょっと考えて物事を言おう。
 まぁ、それでも最近は1年在籍しただけとか、大学にも行かずに高校から直で、というアーリーエントリーがボコボコ増えてきたおかげでNCAAどころかNBAのレベルまで著しく下がってきているのは事実。NBAとしてもむやみやたらなアーリーエントリーはいい加減取り締まった方がいいと思う。NFLみたいに3年以降しかエントリーは許さない、とか、エントリーの年齢制限を設ける、とか、そうでもしないと優秀だが年端も行かない若い少年達のもとに必要以上の金と女とドラッグが集まってきている現状は悪化する一方だろう。
 因みにNCAAとNBAの共有規定として、アーリーエントリーを宣言しても、エージェント(代理人。アメリカのスポーツの世界にはなくてはならない存在)を雇わない場合はアーリー宣言を撤回することが出来、大学に復学してプレイヤーとして残りの年限を過ごすことが可能である。自分が確実にいい順位でドラフトされるかどうか判らないプレイヤーは、このオプションを選ぶ場合が多い。
 追加。2002年4月には高校生のNBAアーリーエントリーに関する規制が緩和され、以前は高校生がNBAドラフトに参加表明をしただけでNCAAに参加する資格を剥奪されていたものが、たとえNBAにドラフトされたとしても、エージェントと契約しておらず、またドラフトしたチームと契約を結ぶことがなければNCAAプレイヤーとして奨学金を貰ってバスケットボールをプレイすることができるようになった。これは昨今の高校生でのアーリーエントリーの増加にも関わらず、2順目でドラフトされた高校生プレイヤーがNBAチームと契約を結べなかった場合の救済策としての措置と考えられる。


(17) 学生席/学生観客
 カレッジバスケットの中では欠かせない存在。通常大学に在学する学生はその大学のバスケットボールのゲームを無料もしくは非常に安価で見ることが出来、彼らは自分のチームの勝利のために、というよりはタダで全米中継のテレビに映りたいがために(笑)テントを張ってまでチケット争奪戦に参加し(デューク大のテント村、別名シャセフスキビルはカレッジの風物詩として非常に有名)、またゲーム時には趣向を凝らした特殊メイクやコスプレを何時間もかけて準備する。有名校、名門校になると、勿論ゲームそのものも素晴らしいのだが、学生応援団のはじけまくったバカっぷりを堪能するのもカレッジバスケの一つの楽しみなのだ。

(18) Dick Vitale(ディック・ヴァイタル)
 別名ディッキー。当サイトではディッキーで通じる。カレッジバスケットボールを語る際に、やはりこの人抜きでは語ることができない、ESPN及びABCの名物カレッジ解説者。NCAAの解説にはコーチ経験者やもと名プレイヤーと言った人が任される場合が多く、何だか偉ぶった解説をする輩がやたらと多いが、ディッキーの場合、その気さくでうるさいキャラクターのおかげでお堅いプレイ解説も何だか全てが軽やかに楽しげになってしまう。
 往々にしてこういうコメディアン的キャラクターを売り物にしているショービジネスの人間は一度カメラを離れると、まるで別人のようにシラケ口調の無口な奴に変貌してしまう種族が多いが、ディッキーの場合、カメラが回ってようが、その辺をぶらぶら歩いてようが、全然キャラクターは変わらず、普段も全くあのまま。いつでもどこでも、うるさくて楽しいジジイなのだ。
 この人のデューク贔屓は有名で、一部の人間から"Dukie Vitale"とまで言われてからかわれているが、本人はと言えば「そうだよ、僕は“デューキー”・ヴァイタルだもの!だからデュークが一番!」と思いっきり開き直っている(笑)。…この爺さん、長生きするわ…(^^;)

(19) McDonald's High School All American
 マクドナルドが冠スポンサーとなって開く、全米中の高校スタープレイヤー達を結集させてのオールスターゲーム。一般に公開される高校生のオールスターゲームの中では一番レベルが高く、ここに選ばれた24人のプレイヤーの内、まず8割以上はNBAで活躍する事が約束されていると言っても過言ではない。ゲームそのものはノーディフェンスのアーリーウープ合戦なのでその辺は見ても仕方がないが、未来のNBAスター、そしてNCAAの有名校に入って活躍が予想される高校生スター選手を青田買いするにはもってこいのゲーム。尚、この種のゲームは1年たってから改めてビデオなどで見直すと、「うおおおお!こんなプレイヤーがここに!」と爆裂することが出来るので「1年殺しのゲーム」とも形容される。

(20) プレビュー本
 毎年10月頃に各メディアから出版される、カレッジバスケットボールのプレビューの為の雑誌のこと。主なところでAthlon Sports、The Sporting News、Street & Smith's、Basketball News、Dick Vitale's、Lindy'sなどがある。WOGは通常AthlonとThe Sporting Newsを併用させてデータの整理やサイトの記事を書いているが、別にその2冊が一番優れている、と言うわけではなく、Athlonがプレイヤー個人個人に対する情報が一番多く掲載されているから、というのと、The Sporting Newsはチームの欄にプレイヤー名からプレビューからゲーム予定まで、全てがコンパクトにまとまっているから、という理由で用いているだけ。
 しかしながら、全くの右も左も判らないNCAAのホンマモンの初心者にはこれらのプレビュー本はちょっと難しいかも知れない。そういう人にお勧めなのは、ACCが独自に毎年発行しているACCハンドブック。プレイヤーの各人の個人写真付きで個人識別がつけやすい、非常に便利な雑誌を発行しているので、それを買ってまずはACCから攻めていく、と言う方法が一番はまりやすいかと思われる。こう書いたからと言って、別にWOGはACCの回し者ではないので誤解のないように(苦笑)。だって他のカンファレンスでここまで親切なもん出してるトコないもん。
 尚、日本の大都市の書店(紀伊国屋書店やパルコブックセンターの洋書コーナーなど)にはAthlon以下のカレッジプレビュー雑誌は2-3週間遅れで並ぶとの話。
 因みにこれとは全く別個にカレッジチームは各自、大体11月始め頃にメディアガイドと呼ばれる、メディア用に編集された、チームの創設から今までの事細かな全ての記録が掲載された分厚い冊子を出版する。これは各大学チームのサイトで通販できるほか、各大学のスポーツインフォメーションオフィスでも取り扱っている。


9. 補遺

 NCAAのルールは毎年NCAAバスケットボール委員会が協議制の上で変更・改正を重ねています。ここでは2001年以降のその年毎のルールの変更された点を紹介していきます。

2001年5月に発表されたNCAAバスケットボール01-02シーズンからの変更点
*テクニカルファウルに関して:全てのテクニカルファウルに対して2本のボーナスフリースローを与える。ただし、ボールの所持権までは奪わない。

2002年5月に発表されたNCAAバスケットボール02-03シーズンからの変更点
*ボーナスフリースローがもらえる状態(相手チームが7個以上のチームファウルを犯している場合)状態でボールを持っているチームのメンバーによって犯されたファウルプレイに対してはフリースローは与えられず、ファウルされたチームにボールの権利が移り、審判が指示する位置からのスローインでゲームが再開される。

2003年5月に発表されたNCAAバスケットボール03-04シーズンからの変更点
*これまでNCAAルールとして独自に設定していたスリーポイントラインとインサイドの制限区域(ペイントエリア)が、国際ルールと同じになるように改正された。これにより、スリーポイントラインはゴールから20フィート6と4分の1インチ(625センチ)になり、ペイントエリアは今までの長方形から台形に形が変わる。


以上は2003年5月までに大体WOGが記憶に覚えているものをそのまま書いたものです。ルールや学校名等、万が一違っている場合がありましたら是非お知らせ下さい。

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