Good Die Young

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 2日前、WOGのいる地元シャーロットのNBAチーム、ホーネッツのプレイヤーであるボビー・フィルズが亡くなった。享年30歳。死因はスピードの出しすぎによるハンドル操作のミスでの対向車との正面衝突。即死だったそうだ。シーズン中にプレイヤーが死んでしまうことなど、NBAはおろか、他のメジャースポーツでも前代未聞であろう。それが、よりにもよって、WOGが住むシャーロットで起こってしまったことはあまりにも悲しい。ホーネッツは彼以前にもデリック・コールマンが昨年10月に飲酒運転で交通事故を起こし、同乗していたチームメイトのリキャズナーは重傷を負い、今もまだ故障者リストに入りっぱなしでチームに復帰できていない。交通安全のお祓いをして貰った方がいいんじゃないのか、ホーネッツは。

 そして、何よりもぞっとしてしまうのは、事故が起こった場所はWOGがいつもホーネッツを観戦しに行くために通る見知った道なのだ。今まで何度となく通った道なだけに、生々しさは余計に際だつ。「あ、あそこで事故が起こってしまったのか」と具体的に想像できてしまうのだ。

 日本にいるホーネッツファンやNBAファンはおそらく地図や写真でしか事故現場を知らない人ばかりであろうから、WOGがあの辺りの地理についてここで説明しようと思う。Tyvola Rd.はシャーロットのダウンタウンの南を東西に突き抜ける道で、行きつけの本屋がこの道沿いのサウスパークモールにあるためWOGはよく使う。インターステート高速道路77号をはさんでだいたい西半分と東半分に分かれるが、東半分の部分は中央分離帯もあり、道沿いに様々な店が建ち並んでいるため車の数も多い一方、西半分は中央分離帯が存在せず、車通りも少なく周りは雑木林が続くただひたすら起伏の多い緩やかな曲がり道を5車線道路が突き抜けている。西半分はまさに「ホーネッツを見に行くための道」なのだ。この5車線道路、シャーロット・コロシアムでなにかイベントがある度に各車線の上に掲げられた電光表示によって真ん中の3車線が好きなように方向を変更出来る仕組みになっている。だから、コロシアムからの帰りなど、WOGが通る帰り側は4車線で、対向が1車線になってしまう。だからWOGなどは「もし、この道路に中央分離帯が存在していれば、ここまで酷い事故にはならなかったのかもしれないのに・・・」などと思ってしまうのだ。

 インター77をはさんでここまでがらっと変わってしまうために、ついつい東半分のTyvolaが混雑していた場合、ついついスピードを出しすぎてしまうのはWOGもよくやってしまう。で、カーブがやたら曲がりにくいなと感じスピードメーターを見ると55マイルぐらいで走っていたりする(制限速度は45マイル)。あわてて速度を落とすのだが、あの東半分の道はなかなか風景が変わらないのでどれぐらいで自分が走っているかの感覚が鈍ってしまうのだ。しかし、それにしても事故当時フィルズは75マイルで走っていたという。あの道を実際に運転したことのあるWOGからしてもあの道で75マイルってのは正気の沙汰ではない。75マイルなんて、インターステイトで出す速度だ。

 事故ついでに言ってしまえば、シャーロット含め、ノースカロライナは本当に交通事故が多い。昨年の10月にも知人の知り合いの日本人留学生が車にはねられて死んでしまった。ここでは衝突事故なんて日常茶飯事なのだ。ハデなクラッシュ事故を横目に見ながら通り過ぎることに慣れてしまった自分が今考えるに日本は本当に安全運転の国だったんだなぁと思う。そして、車がどんなに古かろうか、壊れてようが、こっちの人はお構いなしに乗ってしまう。車の右側が衝突で醜くひしゃげ、後部座席の窓が割れて、代替として厚紙とガムテープを張り付けた車に乗っている人だって見た。こっちの人にとっては「うごきゃいい」のだ。つまり、「うごきゃいい」車でも手に入れなければ生きていけないほど交通事情が発達していないのだ。公共バスは平日は1時間に1本。土日に至ってはサービス無し。鉄道はもっぱら貨物運搬用で人を乗せるための便は1日1本あればいい方だ。日本の田舎だって、ここまで酷くはないだろう。ちょっと水やお菓子を買うにも車で行かねばならないように出来ているのだ。

 これが人口のそう多くない地方都市であればまだ「しょうがない」と諦めもつくが、シャーロットは最近爆発的に人口が増えた都市だ。これだけの人が集まっているのにこんなに公共交通が発達していないのは何かがおかしいとしか思えない。近年気候の温暖なノースカロライナへの企業誘致が盛んになって来たのはよいことだ。しかし、それだけの人口を受け入れるためのインフラ整備が全くと言っていいほど等閑にされている。州の交通局が「ノースカロライナの交通はクレイジーですからなるべく公共交通を使って下さい」といくら呼びかけたとしても、1時間に1本、休日はなしのバス(しかも交通事情によって時間通りに来ないことがざら)に誰が乗ろうとするだろうか。市や州はもっとバスを中心とした公共交通整備に力を注ぐべきだと殊更に思う。

 車を買いたてだった頃、WOGはチャペルヒルまで初めて遠出をしたが、その行きの道でのことだった。同じ車線でWOGの2台前を走っていた車(かなり古い車だった)のタイヤがいきなり破裂してものすごい土埃を立てて急にスピードダウンした。私は勿論、すぐ前の車もいきなりのこのアクシデントに急ブレーキを踏み、前の車は左にハンドルを切って停車、WOGは右にハンドルを切って低速で隣の車線を通り抜けた。その時WOGは一番左の車線にいたのだが、右に切ったときに後ろを全く確認できなかった。もし、右の車線のすぐ後ろに車がいたら・・・。考えただけでもぞっとする。因みに言えばこんなこと(タイヤの破裂)はここでは日常茶飯事なのだ。インターステイトの路肩にはよくそうやって破裂したタイヤの破片や、エンジンがおかしくなった車が至る所に転がっている。ついでに言えば、インターステイトは高速道路のくせにノースカロライナでは1方向につき2車線しかなく、しかも街灯がない。こんな道を(しかも周りはひたすら森)夜運転するのは本当にこわい。途中でエンジンがおかしくなってそんな所に夜放り出されてしまったらWOGは一体どうしよう。

 交通事故は自分が気をつけていなくても起こってしまうものなのだ。特に乱暴な運転をする人が多いアメリカではなおさらだ。それでも車が必需品な国アメリカ。ああ、東京の地下鉄が恋しい・・・(WOGは有楽町線愛好家)。

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