100ドル札

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 最近のシャーロットは異常に暖かい。道行く人の服が半袖だったり、スーパーマーケットに入ると冷房が効いてたり、ここ2週間は既に春そのものだ。日本だとこの時期まだ寒の戻りがとぎれとぎれにやってくるのだが、ここはどちらかというと昼に気温が上がるだけ上がって夜にちょっと冷え込む、という感じ。今季の冬はシャーロットに長く生活している人に言わせれば異常に寒かったのだそうだ。いつもは雪も積もらないぐらいの温暖な気候とか。冷え症のWOGにとっては非常に助かる気候だ(アメリカでも北の方に住んでいる人にはよく羨ましがられる)。しかしそれだけに夏が思いやられる。WOGはめちゃめちゃな多汗症なのだ。この冬の時期でさえちょっと歩くと汗をかいてしまうぐらい酷いから、これから一体WOGにどうしろと・・・(苦笑)。

 さて、それはともかくとして、WOGは3/1にチャペルヒルまでゲームを見に行ったのだが、その時に立て替えたチケット代を友人から現金で貰った。貰ったはいいが、何と100ドル札をくれたのである。ひゃ、ひゃくどる・・・(汗)。WOGは初めて手にする紙幣だった。
 100ドルは約1万円に相当する。日本的な感覚でいけば別に1万円を持って歩いてたって何とも感じないのであろうが、どうもこっちで100ドル札なんてものを持っていると必要以上に警戒して歩かなければいけないような気持ちになってしまう。それよりも何よりも、まず普通の店では100ドル札を差し出しても「そんな大きい金のお釣りなんかない」と断られてしまう場合が多いのだ。実際WOGはフィラデルフィアに行ったときに本屋で50ドル札を出したのだが思いっきり断られ、仕方なくクレジットカードで支払った覚えがある。

 理由は何故か。アメリカの店は防犯のためもともと多額の紙幣を置かないようにしているからだ。読者諸氏もアメリカのコンビニ及び小売店の強盗シーンの防犯ビデオを見たことがあると思うが、凶悪なケースだとレジ打ちの店員を銃で射殺してレジごと盗んで逃げる。最悪のケースそうなったときレジに入っているお金が少量の場合そのリスクは最低限に抑えられるのだ。
 そもそもアメリカの人は現金をそう持ち歩かない。みんな平気で5ドルぐらいしか財布に入れずにぶらぶら歩いている。物を購入するとき、彼らは現金の代わりにクレジットカードや小切手(チェック)を使って精算するのだ。そうすれば現金よりも明らかに誰がいくら払ったかが把握できるし、払われた方も万が一盗まれても盗んだ人の手に金が渡らない。マルクスは資本論の第一章でいかに貨幣が絶対的価値を持つに至ったかをG-W図式を用いて非常に魅力的に説明している。貨幣は全ての商品に対する量的交換価値を持つが故に全ての商品の頂点に位置することが可能だ。しかし、全てのものと交換可能だ、ということはとりもなおさず貨幣は「何物でもない」という性質も同時に取得してしまう。貨幣は必然的に匿名性を帯びざるを得ないのだ。簡単に言ってしまえば甲さんがもっていたお金を乙が盗んで使ったとしても盗んだ事実が発覚しない限りそれで罷り通ってしまう。なぜならば物を購入する時点でそのお金を所持していたのは、たとえそれが不正に手に入れたものであったとしても、乙に他ならないからだ(ああ、こう甲とか乙とか書くとまるで刑法か民法の判例のようだわ^^;;;)。お金に名前は書けない。犯罪の少ない日本ではその辺の感覚がちょっと鈍っているのだろう。

 WOGは今回こちらに来て初めてチェックを使って生活するようになった。今までは短期間だったこともあってちょっと大きい買い物をするときはトラベラーズチェックかクレジットカードで払っていた。チェックの場合、トラベラーズチェックと違っていちいち日付と支払先の名称、金額を数字とアルファベットで記入しなければならないので面倒くさいと言えば面倒くさい。しかし、万が一盗まれたとしても支払先が明記されているので盗んだ人が金を手にすることはよほどのことがない限り不可能なのだ。だから私をふくめ多くの人は電気代や新聞代や家賃の支払いを全てチェックの形式で直接渡しに行ったり郵送したりしている。
 これだけ現金が流通していないアメリカの現状を初めて来た日本人が理解するのはちょっと難しいかもしれないが、アメリカのようにいろんな種類の人々が雑多に集まっている所では「みんなが平和に共存しなければならない」一方で「周りにどんな人がいるかわからない」という危険と常に隣り合わせなのだ。いつ何時自分の隣人が敵になるかが知れないし、たまたま自分の横にいる人が昔は犯罪者だったということだって普通に起こり得るのだ。そんな中での自己防御がこういう形になって現れているのではないだろうか。
 ともあれ、WOGはこの100ドル札をどうやって使おうかと現在思案中だ。いつも使ってる日本食料品店だったら受け取ってくれるかもしれないなぁ(苦笑)。そしてお釣りは全て20ドル札で貰おう(笑/WOGは最大でも20ドル以上の紙幣は絶対に持ち歩かないことにしているので)。

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