The Bad Dream Has Come True (T-T)

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ああ、もう、疲れたったら疲れた。まだもうちょっと眠っていたいのに眠れないので起きてしまった。

 それもこれも昨晩起こったことが全て悪いのだ。

 昨晩、WOGはチャペルヒルに遊びに行った帰り道、ラジオでDuke-Templeの実況を聞きながらDukeに思いっきりむかつきながら高速を制限速度ぎりぎりでイイカンジで飛ばしていたときのことだ。
 いきなりプシューッっという音がしたかと思うと、モーターのゲージが激しく揺れ、Check Engineのランプが点滅した。どれだけアクセルを踏んでもスピードは急降下していく。
 WOGの愛車、シャモンド号がついに壊れたのだった。
 それも、よりにもよって、「ココでだけは事故りたくないよなぁ」と思った、Interstate85のExit90とExit120の間で。
 何故ここが嫌なのか。理由は簡単。周りに人家が全くなく、助けを呼ぼうにも近くには何もない場所だからだ。
 「あちゃー・・・」
 WOGの幻滅は、「帰宅したら勉強せねば」という淡い計画を見事に押し流してしまった。ついでに言えばWOGは携帯電話の申し込みを済ませてしまった後であり、後は到着を待つばかりだったのだ。こういうときに限って携帯電話が是非要るような状況が出来てしまったとは、なんと巡り合わせの悪いことか。
 仕方がないので、ノースカロライナ州の道路交通法の取り決め通り、ハザードランプをつけ、路肩に停車する。車の前部をクランクアップしてアンテナの部分には白いタオル(白旗)を巻き付ける。本来はそれから自分の席のドアを開けっ放しにしなければならないのだが、余りに寒かったので閉めたままにしておいた(その晩は夜半には雪の予報が出ていたぐらい寒かったのだ)。念のためタイヤがパンクしてないかも調べたが形は崩れていなかったのでたぶん問題はエンジンのピストン部分なのだろう。おそらく何本かあるピストンの一つが動かなくなってしまったのだろう、そこの部分から煙が噴き出していた。
 WOGはしょうがないのでひたすら待つことに決めた。アメリカで生活していて何が一番身に付いたかといえば、英語がなんとか話せるようになったこととかではなく、「ただ我慢することができるようになったこと」であろう。元々からあまり動じない性格だったが、ここに来てからは、いくら待たされても、いくら酷い目に遭っても、とりあえずイラつかず、パニック状態にもならず、落ち着いて最善の処置が出来るようになった。
 待つことわずか5分。WOGの車の前にワゴン車が停車した。しかしAAAとも何とも車体には書かれていない。もしかしてこの人も何か車の故障に遭ったんだろうか?といぶかしんでいると運転席から背の高い、若い白人男性が降りてきた。
「どうしたの?何か助けはいらない?」
 男性はそうWOGに話しかけた。
「エンジンがストップしちゃって動かないの。保険に入ってるから保険会社に連絡したいんだけど、ケイタイもってない?」
 WOGはそう答えた。
「いや、僕はケイタイ持ってないんだ。良かったらウチまで来て電話を使うといいよ。僕の家はすぐそこにあるからなんとか出来ると思うよ。今、妻も一緒に車の中にいるから行ってごらん」
 最初WOGは若い男性がご親切にも、ということで警戒はしたが、奥さんも一緒にいるということで安心した。ああ、捨てる神あれば拾う神あり。勿怪の幸いとばかりに保険の必要書類と携帯品とだけを持ち出し、ワゴン車に乗り込んだ。ワゴン車の中には若い女性がいて、こう語ってくれた。
「さっき反対側を走ってたらアナタの車とアナタの姿が見えたから、何か出来るんじゃないかと思って来てみたのよ」
 ああ、なんちゅう善意の塊のような人だ。こういうときに男か女か判らない格好をしていなくて、思いっきり皮のミニスカをはいていたのが「若い少女が一人で困っている。あれではかわいそうだ」と彼らの同情を誘ったのだろう。WOGは今日の自らの服装に感謝した。
 言われるまま、WOGは彼ら、ジョンとカレンの家に行き、電話を借りる。言っておくがWOGは電話が大嫌いだ。でもこの場合はしょうがない。フリーダイヤルの番号を回してオペレーターを呼びだした。しかし、果たせるかな、WOGの英語は通じてないらしい。どうやら違う部署を呼び出してしまったらしく「他の部署に連絡して下さい」と言われて切られてしまった。WOGはしょうがないのでジョンにまたもや図々しく助けを求めた。
「ごめん、ちょっと代わりに事情を説明してくれませんか?」
 ジョンはお安い御用とばかりに電話を取り、説明してくれた。
 WOGが遭難したのはグリーンズボロの近くで、知り合いがいようはずもなく、しょうがないのでレンタカーをグリーンズボロ空港まで借りに行くことにした。夫婦は「良かったら泊まっていけば」とまで申し出てくれたが、そこまでやったら流石に図々しいの極みだろう。WOGが寝ている間に裏のキッチンで「もうちょっと太らせてからいただこう」と包丁を研がれてもいかんし(笑)。
 ジョンは自分が風邪気味だというのに、空港のレンタカー会社まで連れていってくれ、新しい自動車の使い方を教えてくれ、また帰り道、自分の家の場所まで誘導してくれ、「とりあえず水曜日までには修理するらしいから、水曜日にまたここにおいで」と自らの家の地図まで書いてくれた。カレンは腹を空かせたWOGに水と、焼きたてのケーキをご馳走してくれた。ああ、なんちゅう善意の塊のような人達だ・・・・(感涙)。
 また水曜日に、と彼らにお礼とお別れを言って、レンタカーで家に戻ったWOGであった。時刻は既に午前1時を過ぎていた。

 以上がWOGが昨晩遭った災難の一部始終である。あんな森の中で車がダウンして、5分とたたずに助けが来たこと、助けてくれた人が本当にいい人だったことに関しては、自分の強運に本当に感謝せねばなるまい。ポリスだってこんなに親切にはしてくれないんで。
 余談だが、ジョンとカレンの家の3軒隣はNASCARレーサーのボビー・ラボンテの自宅だった(NASCAR知らない人にはその偶然さが判らないだろうな・・・)。WOGはここに来て以来有名人の家を初めて見たが、あんなにNASCARファンの間では有名で、日本にだってファンもいるだろう人の家は、意外に小さかった。

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