2005年02月18日(金)  Discography -- Loyal to the Game (2pac)
 私は普段有線のLAのヒップホップラジオを目覚まし代わりに使っているが、ある日、あの聴き慣れ過ぎたよく通る声が、全く新しいライムとバックのサンプリング音楽から流れてきた。

 ”2pacが「また」、新しいアルバムを出したのか”

 2日後、私の部屋の2pacのCDコレクションの中にこのCD"Loyal to the Game"が加えられた。

 まず、聴いて感じたのは全体的にものすごく音が重かったことだった。"All Eyez on me"の頃から考えると信じられないぐらいイーストコーストテイストになっている気がする。これはアルバムの中にも明記されているが、このアルバムの製作の殆どにMarshall MathersことEminemが関与していることと無関係ではあるまい。一般的にEminemは重い音のサンプリングを好んで使う。特に最初に最初の"Soldier Like Me"は2pacの曲というよりは完全にEminemサウンドに2pacのライムを乗せた曲と言ってもいいと思われる。

 しかしながら4曲目の"Ghetto Gospel"は"Resurrction"の中の"Runnin'"(feat. Notorious B.I.G.ということもあってヘヴィローテーションされて一昨年の冬Top10入りしていた曲である)に似た作りになっているので、聴きやすい曲かもしれない。

 現在FM局でヘヴィローテーションになっているのは7曲目の"Thugs Get Lonely Too"で、これが起きぬけの私に「また新しいの出したのか、2pac・・・」と半ば買うことが義務のような気分にさせられてしまった曲である。この曲を聴きながらCDのジャケット写真を見ていると、何とも言えない悲しく寂しい気持ちにさせられてしまうのは何故だろうか。

"...'Pac, why can you tell the story so sadly...?"

 ジャケットに映っている2pacはめがねをかけ、淡い色のシャツとパンツに身を包み、窓際で静かに佇んでいる。その儚い姿からは、体中にタトゥを入れ、マッチョに振る舞い、札束をカメラに向かってなびかせてメディアに露出していた2pacの生前の姿がどうしても想像することが出来ない。

 2pacが死んでから時間が経てば経つほど、彼はその存在感を増し、アルバムが次々に出ていった。それを買いつづけるにつれ、私は一種の哀しさを増しつつある。何故ここまで素晴らしい芸術家があんな形で死んでしまったのか、と未だに彼以上のラッパーを捜せずにいる自分自身に気づかされる。勿論MissyもNellyもEveも、そしてLudacrisも私は聴いている。が、2pacを聴く時、私は他のラッパーの曲を聴いている時とは全く違った感情が自分の中で喚起されるのが判る。

 それは、ミラノのとある美術館に行った時に連綿と続く宗教画に半ば飽きかけていた頃に、カラバッジョの聖セバスチャンの絵を目にしてしまった時の衝撃に似ている。その美術館には他にも聖セバスチャンを描いた絵は数多あったのだが、「あの聖セバスチャン」は私の足をすくめ、目をそむけることすらさせることができなかった。私が2pacを聴く時、何となく私はあの時の衝撃と恐ろしさ、そして哀しさを思い出す。

 2pacが伝説になるにつれ、彼の遺した膨大なサンプルによって彼の死後CDが焼かれたのはこれで一体何回目だろうか。自分はシューグ・ナイトやその他の2pacの「威光」から金を生み出そうとしている人間達の思う壺にはまっているのかもしれない。

 しかし、それでも私は2pacのCDを買いつづけるだろう。なぜなら、彼の声は私にとって「特別」であり、「恐怖」であり、「感動」であるからである。


Go Back Home